Bluetoothチャネル サウンディングによる
新しい測距アプリケーションの実現
Nordic Semiconductor May 1, 2025

Bluetoothの新機能が測距技術を強化 - デバイス測位および位置情報サービス アプリケーションの可能性を拡大

Bluetoothの新機能が測距技術を強化 - デバイス測位および位置情報サービス アプリケーションの可能性を拡大

Bluetooth LEヘルスケア、コンシューマ、オーディオ、産業、その他数多くの応用分野で広く使われてきました。それらに加えて、近年ではデバイス測位ソリューションを構築するための、幅広く使えると同時に信頼性の高い技術としての地位を確立しました。広く使われ成熟した近距離無線技術は、近くに存在するデバイスの存在を検出して報告したり、デバイス間の距離を推定したり、別のデバイスが見つかる方向を計算したりするのに使えます。

Bluetoothコア仕様の最新アップデート(Bluetooth 6.0)では、Bluetoothチャネル サウンディングと呼ばれる新しい測距機能が追加されました。この技術を使うと2つのBluetoothデバイス間のセキュアな測距が可能となり、多数の革新的な新しい無線近接・測距アプリケーションを実現できます。さらに、チャネル サウンディングは、携帯電話やその他バッテリ駆動のBluetooth LE製品に広く採用される見込みです。

本稿ではチャネル サウンディングと、NordicのSoCと開発ツールを使って新しい測距アプリケーションを構築する方法を説明します。

「チャネル サウンディングを使うと2つのBluetoothデバイス間のセキュアな測距が可能となり、多数の新しい無線近接・測距アプリケーションを実現できます」

出典: bluetooth.com

高精度な測距

PBR (Phase-Based Ranging)は、測距にイニシエータとリフレクタを使います。イニシエータは既知の周波数の信号を発信し、リフレクタはそれに応答します。その後、送信した信号と受信した信号の位相差を計測します。別の周波数の信号を使ってこのプロセスを繰り返します。位相差と周波数間の差を基に、専用のアルゴリズムがイニシエータとリフレクタの間の距離を求めます。(Figure 1)RTT(Round-Trip Timing)は、パケットがイニシエータとリフレクタの間を往復する時間を計測し、その往復時間にC(光速)を掛けて最後に2で除算することで距離を求めます。リフレクタがパケットを受信して応答するまでの時間を考慮するため、総ToF (Time of Flight)から既知の時間を引きます。(Figure 2)

チャネル サウンディングの基本

Bluetooth LEは長い間デバイスの測位と位置情報サービス技術を組み込んできました。例えば、Find MeプロファイルはBluetooth LEがリリースされた当初(Bluetooth 4.0の特徴的な要素として)Bluetoothコア仕様の一部として含まれていました。

その後、ビーコンが一般的なBluetooth LEアプリケーションとなるにつれ、Bluetooth仕様の送信出力(TX Power)と呼ばれる値が、ビーコンやその他の送信デバイスから1メートル離れた場所での基準出力レベルとなりました。RF信号は、トランスミッタからおおむね距離の2乗に反比例して減衰します。従って、送信出力値が既知であれば、計測されたRSSI(受信信号強度インジケータ)は、ビーコンや他のトランスミッタとレシーバ間の粗い距離の(「近い」、「接続済み」、または「圏外」)推定として使えます。

そして2019年、Bluetooth 5.1の一部としてBluetooth Direction Findingが導入されました。この技術により、アプリケーションはBluetooth LEコントローラによる位相計測を用いて、受信信号の方向を正確に計算できるようになりました。2つの手法が定義されました。AoA (Angle of Arrival: 受信角度)とAoD(Angle of Departure: 放射角度)です。

いくつかの重要な理由により、チャネル サウンディングは、測距アプリケーションにとってシンプルで信頼性の高いソリューションとなりました。第一に、標準化されており、相互運用が可能ということです。第二に、余分なハードウェア コストをかけず、最小限のソフトウェア フットプリントで、非常にシンプルなデバイスや、より高度な製品に追加してサポートできるということです。第三に、消費電力がBluetooth LEによる通常のデータ転送程度に低いということです。最後に、チャネル サウンディングは精度、レイテンシ、セキュリティ、消費電力に関する様々なハードウェアおよびソフトウェア構成をサポートしているということです。

チャネル サウンディングのBluetooth仕様は、無線(PHY)の新機能、コントローラの機能、セキュリティ対策、計測生データの収集に必要な手順を定義しています。ただし、専用アルゴリズムによる生データの距離計測値への変換はアプリケーション レベルで行うものであり、仕様の範囲外です計測とアルゴリズムの構成は、必要な精度、レイテンシ、セキュリティ、アプリケーションによる電力消費のバランスを取るために調整できます。

チャネル サウンディングを支える技術は複雑ですが、PBR (Phase-Based Ranging)またはRTT (Round-Trip Timing)に基づいています。PBRは、複数の周波数にわたりイニシエータ デバイスから送信され、リフレクタ デバイスから返送される信号の位相シフトに基づいています。生データから距離への変換には専用のアルゴリズムを使い、アプリケーション レベルで実行します。RTT手法は、無線パケットがイニシエータとリフレクタの間を往復する時間に基づくものです。RTTは、PBRをクロスチェックするための安全な距離限界手法として機能し、距離を求めるために用いるアルゴリズムは、PBRのそれよりも単純です。(パネル: 精密測距参照)

 

存在検出が改善し、中間者攻撃やリレーアタックに対する鍵の保護を強化できるため、チャネル サウンディングはスマートロックの役に立ちます。

新たなアプリケーションを支える

他のBluetooth LEの機能拡張と同様、チャネル サウンディングは従来想像もできなかったような多くのアプリケーションを実現するでしょう。いくつか例を挙げてみましょう。一つの例はタグの改良です。

今日のタグ ソリューションはうまく機能していますが、作動時の音や振動がソファのクッションや毛布で消されてしまうことがあります。チャネル サウンディングは、音や振動アラームの限界を克服するために、長距離での正確な「ホット(近い) - コールド(遠い)」近接アラートを実現します。

チャネル サウンディングのメリットを活用できるもう一つのアプリケーションは、スマートロックです。ロックを作動させようとする人物の存在検出が改善するため、中間者攻撃やリレーアタックからスマートロックを強固に保護できます。

チャネル サウンディングは家電製品も強化します。存在または距離のコンテキスト化は、ユーザー体験分野で大幅な改善を可能にします。例えば、チャネル サウンディングが提供する物理的なコンテキスト情報は、複数のデバイスと接続する際に便利です。また、ユーザーがデバイス近くにいるときにのみ制御機能を起動する、といった安全機能を補助します。

Bluetooth LEは、既に資産追跡の位置情報サービスに広く使われています。しかし、チャネル サウンディングを採用することで、複雑さやコストを大幅に増やすことなく、資産追跡アプリケーションにおける精度、信頼性、利便性を改善できます。

チャネル サウンディング開発サポート

Nordicの新しい第4世代無線SoCであるnRF54LおよびnRF54Hシリーズは、Bluetooth LE、Bluetooth MeshZigbeeThreadMatterAmazon Sidewalk独自規格の2.4 GHzプロトコルに加え、Bluetooth 6.0およびチャネル サウンディングをサポートします。

nRF54シリーズの開発サポートは、Nordicのスケーラブルな統合ソフトウェア開発キットであるnRF Connect SDKのアップデートを通して行います。このSDKは、メモリに制約のあるデバイス向けにサイズを最適化したソフトウェアや、より先進のアプリケーション向けに複雑なソフトウェアを構築するための、拡張可能なフレームワークを開発者に提供します。

Bluetoothチャネル サウンディングは、PBRおよびRTTベースの近接および測距アプリケーションの優れた基礎ですが、Nordic独自の代替手段もあります。NDT (Nordic Distance Toolbox)は、Bluetoothエコシステム外でこれらの機能を必要とする場合や、一部のNordic nRF52およびnRF53シリーズSoCに関連アプリケーションを実装する場合に、PBRおよびRTTベースの高度な測距および近接センシング機能を提供します。

nRF Connect SDKのソフトウェア ライブラリには、NDT対応デバイス間の距離を正確に決定するアルゴリズムが含まれています。これらは、RSSIベースの粗い距離推定のみのソリューションと比較して精度が大幅に向上しています。nRF Connect SDKには、NDTの機能デモサンプルが含まれています。

資産追跡市場だけでも、2023年には212億5000万ドルと評価されました。Fortune Business Insightsによれば、2032年には596億4000万ドルに成長すると予測されています。また、他の多くのアプリケーションも、高度な測距および近接センシング機能によってサポートされるでしょう。

Bluetooth 6.0の機能としてBluetoothチャネル サウンディングが登場したことで、開発者は資産追跡やセキュリティなどの盛り上がりを見せる市場向けに、「勝てる」アプリケーションを構築するための強力な新しいツールを手にいれたと言えます。

技術チェック

nRF54L15はNordicの第4世代無線SoCで、128 MHz Arm Cortex-M33プロセッサ、1.5 MBのNVM、256 KBのRAMを実装しています。本SoCは、Bluetooth LEとBluetooth Meshに加えてチャネル サウンディングもサポートしています。

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