レンジ エクステンダーによるリンクバジェットの増大
NordicのnRF52およびnRF53シリーズSoCの通信距離とリンクの堅牢性は、ほとんどのアプリケーションとユースケースの要件を満たしていますが、RFフロントエンドモジュール(FEM)を追加すべき場合も存在します。RF FEMは、無線デバイスの通信距離を延ばすと同時にリンクの堅牢性を高めます。NordicのnRF21540 RF FEMをnRF52またはnRF53シリーズSoCと組み合わせると、通信距離を6.3~10倍に延長できます。
上図では、TX出力が+8 dBmの通常の接続と、両方にnRF21540 RF FEMを使ったTX出力+20 dBmの接続を比較しています。nRF21540によるTX出力の向上とRX感度の向上の両方が接続距離の延長に貢献しています。TX出力が+8 dBmより小さいNordic SoCを使用する場合、レンジの延長度合はさらに大きくなります。
20 dBmのTX出力が許可されない地域もあることに注意してください。詳細は最大規制出力表をご覧ください。
規制の範囲内でリンクバジェットを最大化する
TX出力と受信感度の両方が、接続のリンクバジェットに直接影響します。
Bluetooth 5の仕様で最大許容出力電力が+20 dBmに引き上げられた後、デバイス出力はほとんどの地域で規制値が限界となっています。
nRF21540 RF FEMとnRF52またはnRF53シリーズSoCを組み合わせることで、TX出力をきめ細かく調整できるため、最大TX出力を以下の規制値より1dBm低くできます。TXのゲインは動的に調整できるため、適応ゲイン制御アルゴリズムを実装できます。1 MbpsのBluetooth LEを実行すると、すべてのnRF52およびnRF53シリーズSoCでRX感度が-100 dBmに向上します。Bluetooth Long Range、Thread、Zigbeeを使用すると、感度はさらに向上します。
最大TX出力の規制値
下表は、主な規制出力制限値(dBm EIRP)をまとめたものです。製品を使用する予定の地域の規則をご確認ください。米国ではFCC、欧州ではETSI、日本ではARIBが無線通信を規制しています。
ORGANIZATION
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BLUETOOTH LE
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BLUETOOTH LE
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BLUETOOTH LE
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BLUETOOTH LE
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802.15.4
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Throughput
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125 kbps
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500 kbps
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1 Mbps
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2 Mbps
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250 kbps
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FCC (USA) *
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14
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14
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20
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20
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30
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ETSI (Europe)
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10
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10
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10
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10
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13**
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ARIB (Japan)
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10
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10
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10
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10
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10
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China
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10
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10
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10
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10
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10
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Korea
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10
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10
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10
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10
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10
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- FCCが定める最大出力は+30 dBmですが、Bluetooth SIGは+20 dBmを制限値としています。125 kbpsと500 kbps では、電力スペクトル密度規制により、出力は14 dBmに制限されます。802.15.4はFCC規制によってのみ制限されます。
- ETSIは、802.15.4に対して10 dBm/1 MHzを制限値としています。802.15.4は5 MHzのチャンネル幅を規定していますが、占有帯域幅で消費されるのはチャンネルの2 MHzのみです。帯域幅を倍の2 MHzにすると3dB追加され、13 dBmとなります。
リンクの堅牢性
リンクの安定度を高める
RF FEMは、通信距離を延ばすだけでなくリンク接続の堅牢性も高めます。リンクが堅牢であるほどパケットロスが減り、再送信が減ります。再送信とは、電力効率と最大スループットを低下させる冗長パケットです。リンクが堅牢であれば最初のパケットの受信に成功する確率も高くなり、リンクレイテンシが安定します。
アプリケーション
RF FEMを使った新しいアプリケーションと機能の改善
資産追跡、スマートホーム、産業、スマート農業、オーディオ、業務用照明等、RF FEMを追加することで多くのアプリケーションが恩恵を受けることができます。スマートホームおよび産業用アプリケーションでは、通信距離の延長が大きなメリットとなります(家屋全体のカバレッジ等)。オーディオ アプリケーションでは、スループットの向上とレイテンシの低減が大きなメリットです。下図は、レンジ エクステンダーがある場合とない場合の、工場で追跡される資産の通信レンジを示しています。