世界は小さな一次電池で駆動する小型電子機器に依存しています。調査によると、私たちは毎日約8,000万個の一次電池廃棄しています。電池からより多くの電力を取り出すには、どうすれば良いでしょうか。
低コストで利便性の高い一次電池は、開発者にも消費者にも人気です。現代の超低消費電力設計は、電池を交換せずに何年もデバイスを動作させることができます。電池寿命が長いため、一次電池は「取り付けたら忘れてしまえる」と考えがちですが、デバイスを一次電池で駆動している限り、いつか電力がなくなる時が来ます。
一次電池で駆動するデバイスのほとんどは、電源管理を使用していません。代わりに、電池の電圧の安定度に依存しています。電圧が回路の最小動作電圧を下回ったら電池を交換します。
今日のICの多くは1.8~3.4 Vの電源電圧で動作するように設計されていますが、電力を供給している電池の方は1.8 Vで動作を停止するわけではありません。電池の出力電圧が1.8 Vを下回ると、デバイスにとっては低過ぎてしまいますが、電池にはまだ電力が残っています。毎日何百万個もの一次電池が消費されているのですから、それらひとつひとつから利用可能な電力をすべて取り出せるよう、もっと努力すべきです。
昇圧コンバータを使用すれば、その潜在的電力を利用できます。電源管理IC (PMIC)は、安定した電力を供給するために昇圧コンバータを備えていることが多いのですが、ほとんどのPMICは複数の電圧ドメインを持った複雑なデバイスです。そのようなデバイスは大型で高価であり、一次電池で動作する単一電圧アプリケーション用に設計されたものではありません。
Nordic SemiconductorのnPM2100は、そのようなデバイスとは異なります。nPM2100は、一次電池アプリケーション専用に設計されたNordic初のPMICであり、市場のギャップを埋めるものです。また、チップスケールパッケージならわずか1.9 × 1.9 mmと、Nordicがこれまで製造した中で最小のデバイスです。
nPM2100の特長
nPM2100は、一次電池の寿命を延ばすために設計されました。Nordic社の低消費電力無線(Bluetooth、Thread、Matter、Zigbee)デバイスのサポートが主な目的ですが、接続されているかどうかにかかわらず、あらゆる電池駆動デバイスに使用でき、一次電池を最大限に活用できます。
nPM2100は、これを可能にし、際立たせる電源関連の特長が数多く備えています。主な特長は以下の通りです:
1. 超高効率の昇圧コンバータ - 最大95%の効率
2. 独自のシップモードにより、出荷前に電池を装着可能
3. 電池寿命を延ばす低消費電力スリープタイマ付きハイバネーションモード
4. 電池寿命を推定する革新的なバッテリ残量計
図1: nPM2100 PMIC
nPM2100 PMICは、超高効率の昇圧コンバータと複数の省電力機能を備えています。I2C互換の2線式インターフェイスでアクセスするレジスタを使用して、柔軟な設定が可能です。
図1で示すように、メインの出力電圧は1.8~3.3 Vで設定できます。電池の出力が0.7 Vまで下がっても、昇圧コンバータによりこの出力電圧を供給できます。昇圧コンバータは電池の出力が3.0 Vに下がると動作を始め、電池の出力が最低入力電圧に達するまで動作を続けます。すなわち、電池の内部抵抗が昇圧コンバータの入力電流を制限しない限り、電池の出力が0.7 V以上あればnPM2100は3.3 Vを最大150 mAで供給できます。
メインコンバータは降圧/昇圧型ではないため、nPM2100は降圧を行いませんが、昇圧コンバータの出力に接続したLDOレギュレータを内蔵しています。これにより、最大50 mAを出力できますこのLDOも、2線式ポート経由でソフトウェアにより制御します。出力電圧は0.8~3.0 Vのレンジで、50 mV刻みで設定できます。ロードスイッチとしても使用できます。
新しい電池を装着した場合、電圧は3.4 Vまで上昇する可能性があるため、主電圧を使用する部品は、そのような高い電圧に耐えられるものであることが必要です。しかし、一次電池で駆動する小型デバイスの多くは電圧レギュレータや電源管理を内蔵していないため、これは制限にはなりません。
スマートセンサのような小型デバイスの場合、150 mAのピーク電流はかなり大きいものです。一次電池で駆動するコネクテッドデバイスでよく使用されるnRF54L15マルチプロトコル無線マイクロコントローラの場合、8 dBmでの送信時に10 mA未満、0 dBmではわずか4.8 mAしか必要としません。Nordicはこの種のデバイスをサポートするためにPMICを設計しましたが、ピーク電流150 mA未満で1.8~3.0 Vを必要とする電池駆動の設計であれば、どのようなデバイスにも使用できます。
多くのデバイスが必要とするピーク電流は、150 mAよりはるかに小さいでしょう。nPM2100の昇圧コンバータの効率が一次電池PMICの基準となるでしょう: 電源電圧が2.7~3.3 Vの場合、70 mAで最大95%、10 µAで90.5%の効率が得られます。
図2: nPM2100の昇圧コンバータの効率
nPM2100の昇圧コンバータは一次電池からより多くの電力を取り出すことで廃棄物を減らし、ユーザー体験を向上させます。
製品に電池が含まれる場合
工場出荷前の一次電池装着には利点があります。消費者は、開梱してすぐに製品を使えるという、より良い体験が得られ、製造者は電池の端子を絶縁するための小さなタグを省けます。このタグはコストとプラスチック廃棄物を増やし、製品のデザインに影響を与えます。
意図した通りに使用された場合、nPM2100は電圧を完全に制御します。これには、電池を分離する低消費電力モードが含まれます。その場合、PMICだけに電力を供給します。このモードは、出荷時や製品が動作していないときに使用できます。Nordicが「シップモード」と名付けたこのモードは、35 nAしか消費しません。これは、一般的なアルカリ電池や二酸化マンガンリチウム一次電池の自己放電よりも小さい電流です。
nPM2100は2つの方法でシップモードをON/OFFできます。プログラムによる方法と、SHPHLDピンをHigh/Lowにする方法です。SHPHLDピンを使用するかどうかはレジスタで設定でき、SHPHLDの立ち下がり/立ち上がりエッジを検出します。このピンはbreak-to-wakeとしても構成できます。その場合、SHPHLDとグランドの接続を解除してPMICを復帰させます。
通常動作時の電力を節約するにあたり、Nordicはハイバネーション モードを採用しました。このモードはPMICのタイマを使用しており、シップモードより多くの電力を消費しますが、デバイスの復帰はより速くなります。つまり、ハイバネーション モードを使用すると、ユーザー体験に悪影響を及ぼすことなく電池寿命を延長できます。タイマを使用したハイバネーションの最長時間は3日間です。
図3: ハイバネーション モード
ハイバネーション モードは消費電力をわずか175 nAに抑え、シップモードよりも高速な復帰を実現しています。内蔵タイマを使って主回路を定期的に復帰させることができ、また多くのマイコンよりも長いスリープ時間を実現しています。
ソフトウェアによるバッテリ残量計
一次電池にどれだけの電力が存在するか知ることは、単に端子間の電圧を計測するよりも複雑な課題です。温度は一つの大きな要因です。Nordic社は、電圧と温度を使って電池に残っている電力量を推定するソフトウェア アルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは電池の化学的性質に合わせて調整されています。
nPM2100は温度センサを内蔵しています。お客様はNordicのアルゴリズムをアプリケーションコードに組み込めます。これにより、残存電力量と一次電池の交換時期をより正確に見積もることができます。
その他の革新的な機能
高効率の昇圧コンバータに加え、nPM2100はレジスタで設定するGPIOピンを2本備えています。内蔵A/Dコンバータは、電池電圧と出力電圧の計測、内蔵温度センサの読み取りに使用します。このA/Dコンバータはシングルショットまたは定時変換モードに設定できます。ここでの1つの方法は、GPIOを割り込みとして使用し、計測完了時にホストMCUに警告を出すことです。
nPM2100の詳細と、将来の電池駆動設計に対するメリットについてAvnetの営業担当にお問い合わせください。